憂慮する科学者同盟(UCS)編
水曜社大事故を起こした福島第一原子力発電所で目に入る
原子力発電関係の書物はいずれをとってもその安全性の根拠にラスムッセン報告を取り上げていた。
この報告によると、原発事故のおきる確率は1プラントあたり1年間に10億分の1で、(神話でなく科学的に)心配するような事故が起きることはないとのことだった。
原発の安全性への疑問―ラスムッセン報告批判 (1979年) はMITを中心とする科学者たちがまとめた、ラスムッセン報告に対する科学的な批判論文の一つであり、1977年に公表された。
日本では2年後に翻訳が出版されたが、電力会社も通商産業省も黙殺したようで、その後も原発推進は精力的に行われた。
現在古書市場にほとんど見られないことから、発行当時に買い占めがあったのかもしれない。
1979年1月に米国ではNRCがラスムッセン報告支持を撤回、同3月にスリーマイル島原発事故が起きたが、
日本では専ら「このような事故は起こりえない」というご託宣によって安全神話が再確認されただけである。
平成24年7月5日に国会事故調の『報告書』が公表されたが、この『報告書』を読むと、この書物がいかにも邪魔なレポートだったであろうことが推察される。
ノーマン・ラスムッセン
ノーマン・C・ラスムッセン(Norman Carl Rasmussen、1927年11月12日 - 2003年7月18日)はアメリカ合衆国の物理学者。
専門はガンマ線のスペクトル分析。
彼にとっては専門外であったアメリカ原子力委員会(AEC)から付託された『原子炉安全性研究』の報告書いわゆるラスムッセン報告(WASH-1400)の主査として知られる。
経歴
彼は1927年にペンシルヴェニア州で生まれ、マサチューセッツ工科大学に入学・卒業後、同大大学院教育に進学して1956年同大の物理学講師を経て、1958年に同大教授に就任。
1975年10月30日、ミニットマン (ミサイル)の信頼性評価・安全性解析を目的として米空軍が使用したフォルトツリー解析を適用した『原子炉安全性研究』の報告書『原子炉安全性研究―アメリカ商業用原子力プラントにおける事故の危険性の評価』いわゆるラスムッセン報告最終版を提出。
その功績で1985年にエンリコ・フェルミ賞を受賞。
彼のラスムッセン報告によれば、原子力発電所における大規模事故の確率は、原子炉1基あたり10億年に1回で、それはヤンキースタジアムに隕石が落ちるのを心配するようなものであるとされていた。
しかしながら原子炉安全性研究の進行中から、『憂慮する科学者同盟 』 (The Union of Concerned Scientists)やハロルド・ルイス (カリフォルニア大)を主査とするレビューグループによる批判や反論がなされていたが、1979年1月19日にAECの業務を引き継いだアメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)は支持撤回を発表した。
さらに同年3月28日スリーマイル島原子力発電所事故が起き、これが何より具体的で誰にも解りやすいラスムッセン報告への強力な反論となった。
参考文献
- Reactor Safety Study, WASH-1400 (NUREG-75/014)
- 原子力局調査国際協力課『ノーマン・C・ラスムッセン教授による講演会実施結果について』
- 『原発の安全性への疑問―ラスムッセン報告批判―』(憂慮する科学者同盟(著)、日本科学者会議(訳)、水曜社、1979/06)
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